フォーカストセッション

FS01 化学構造情報を用いた計算ADMET研究の新展開

化学構造情報を用いた計算ADMET研究の新展開

10月29日(火) 14:00〜15:30 タワーホール船堀4F 研修室

化学構造には多様な情報が包含されている。化学構造情報を精査することによって、ADMETに関わる多様な生理活性の予測に役立てることができるばかりでなく、臨床的なイベントの発生機序に対する大きなヒントになり得る。一方、近年発展の著しい機械学習技術を活用した計算ADMET研究領域においては、従来では到達し得なかった精度の予測が可能になりつつある。そこで、企業、臨床、およびアカデミアの視点から化学構造を活用するための多様な知見を共有することによって、最先端の計算ADMET研究に関する議論を深めることを目的として本セッションを企画した。

モデレーター

植沢 芳広(明治薬科大学)
長谷川 清(テクノプロR&D)

演者

FS01-01

植沢 芳広
(明治薬科大学)

「Ames/QSAR国際チャレンジおよびTox24チャレンジからみたQSAR予測の到達点」

最近、QSAR予測に関する国際コンペティションである第2回Ames/QSAR国際チャレンジ(国立医薬品食品衛生研究所主催)およびTox24チャレンジ(第33回人工ニューラルネットワーク国際会議等の共催)が実施された(Tox24チャレンジは本稿執筆時点で開催期間中)。演者が主宰する研究室ではチームを組んでこれらのコンペに参加した。Ames試験結果の識別をターゲットとするAmes/QSAR国際チャレンジでは第1回、第2回を通して総計109種類の予測結果が提出された。これらの結果を集計し、化合物のカバー率が100%であった場合の予測性能を推定した結果、我々のモデルは種々の評価指標において最高精度を示した(1)。一方、トランスサイレチンに対する親和性のin vitro実測値を予測対象としたTox24チャレンジでは、Ochem上に設置されたリーダーボードの外部検証RMSEランキングにおいて現在の参加51チーム(総計900申請)の中で1位を獲得している。本講演では当研究室で構築したこれらの予測モデルについて解説したい。
1) Uesawa Y. Progress in Predicting Ames Test Outcomes from Chemical Structures: An In-Depth Re-Evaluation of Models from the 1st and 2nd Ames/QSAR International Challenge Projects. Int J Mol Sci. 2024 Jan 23;25(3):1373.

FS01-02

清水 忠
(兵庫医科大学薬学部)

「「化学構造」×「臨床研究データ」を起点とした基礎研究の着想」

演者は, 既に報告のある臨床研究の情報と化学構造の視点を着想の原点としたドラッグリポジショニング研究を展開している。一方で, 化学構造からの着想を基に国内医薬品有害事象自発報告データベースを用いた仮説生成研究を行っている。本セッションでは, 2020年以降に演者が報告したいくつかの研究事例について, 着想の経緯を中心に紹介する。さらに, ドラッグリポジショニングにおける医薬品選択において, 最近, 取り組み始めた機械学習モデルの活用についても紹介する。本講演をきっかけに 「化学構造」×「臨床研究データ」を起点とした基礎研究の展開について, 参加者の皆さんと一緒に考える機会となれば幸いである。

FS01-03

長谷川 清
(テクノプロR&D)

「製薬会社でのADMET予測および臨床での応用」

前職でのADMEに関しての取り組みを紹介します。ADMEモデルは、社内のローカルデータを使って、fingerprintとpipeline pilotで予測モデルを構築しました。ケミストが利用しやすいように、構造式をsketchで書くと予測値が計算され、coloringでどの部分が各ADMEに寄与しているかが可視化できるので、デザインにすぐ利用できました。現職に移動してからは、生成AIとADMET予測の融合プログラムを開発して、クライアントのsolutionに貢献しています。最後に、ADMEモデルの現状と課題点について、紹介したいと思います。

FS02 計算と実験の融合による核酸医薬開発の動向と展望


計算と実験の融合による核酸医薬開発の動向と展望

10月29日(火) 14:00〜15:30 タワーホール船堀4F 407

核酸医薬品は低分子医薬や抗体医薬とは異なりタンパク質の発現を遺伝子レベルで制御することから、低分子医薬品や抗体医薬では治療が難しい疾患に対して、治療の可能性をもたらす新たな創薬モダリティとして期待されている。分子シミュレーション解析をはじめとする計算化学手法は、創薬研究において実用的な研究ツールとなってきているものの、核酸に対する解析例はまだ少ないのが現状である。本セッションでは核酸研究に携わっている先生方に、核酸分子の立体構造やその機能、計算化学手法を取り入れた研究の成果などついて講演いただくとともに、企業研究の観点からも核酸医薬開発における動向や計算化学への期待や展望について講演いただく予定である。

モデレーター

渡邉 博文(株式会社ウィズメーティス)
山岸 賢司(日本大学)
石川 岳志 (鹿児島大学)

演者

FS02-01

塚田 洋之
(日産化学株式会社)

「分子動力学シミュレーションを活用したアンチセンス核酸設計技術の開発」

アンチセンスや siRNA、アプタマーに代表される核酸医薬品は、遺伝性疾患や難治性疾患、さらには高コレステロール血症などの一般的な疾患に対しても顕著な治療効果を示す、新しいモダリティとして注目を集めている。これまでに、日米欧いずれかの市場で20品目が上市されているが、そのうち17品目は2016年以降に上市されたものであり、近年急速に発展している分野であるといえる。本講演では、アンチセンス核酸医薬品に焦点を当て、基本的な特徴や研究開発上の課題について説明する。その後、当社で検討している、分子動力学シミュレーションを活用した医薬品設計技術の開発に関する取り組みについて紹介する。

FS02-02

坂本 泰一
(千葉工業大学 先進工学部 生命科学科)

「核酸医薬の立体構造と物理化学的特性」

近年、様々な病気に対する核酸医薬が注目され、様々なタイプの核酸医薬が開発されている。アンチセンス核酸やsiRNAがmRNAあるいはpre-mRNAを標的として、塩基配列に相補的に結合して作用するのに対し、アプタマーはタンパク質を標的として、タンパク質の立体構造を認識して結合し、作用する。アプタマーは、抗体のようにはたらくことから核酸抗体ともよばれるが、抗体とは物理化学的特性が大きく異なり、標的タンパク質との相互作用機序も異なる。本講演では、核酸分子の立体構造や物理化学的特性について概説しつつ、研究例を紹介したい。さらに、日本大学の山岸先生との共同研究で進めている計算化学による相互作用機序の理解、それを利用したアプタマーの改良の試みについて紹介する。

FS02-03

山岸 賢司
(日本大学 工学部 生命応用化学科)

「核酸分子に対する分子シミュレーション解析」

分子シミュレーションを用いた核酸分子の解析例は、タンパク質に比べると極めて少ない。このような状況の中、私たちの研究グループではいち早くRNAの立体構造やRNAと結合する分子との間に働く分子間相互作用を,量子化学計算や分子動力学計算などの分子シミュレーション手法を用いて解析し,RNAの構造と機能について研究を進めてきた。本講演では、千葉工大の坂本先生方と進めている核酸アプタマーに対する分子シミュレーション解析の実例を報告し、核酸医薬の開発における計算化学の有用性について紹介する。

FS03 計算ADMET研究会(旧・計算毒性学研究会)10周年記念セッション

計算ADMET研究会(旧・計算毒性学研究会)10周年記念セッション

10月30日(水) 14:00〜15:30 タワーホール船堀4F 研修室

「計算毒性学研究会」は2014年にCBI学会傘下の研究会として発足致しました。当時、計算毒性学を討論対象として論じる場は日本にはなく、毒性や創薬関連学会等でのスポット的な討論のみ可能でありました。計算毒性学は名前が意味するように、毒性学とデータサイエンス技術が融合した研究で、日本の研究環境下では認識、実施されにくい融合研究分野でありました。一方で、当時の欧米では「計算毒性学」の発展が著しく、このままでは欧米諸国と日本の計算毒性学のレベル差が大きくなるという危機感の下での発足であった。幸いに当研究会は研究者の関心や支援もあり、10年という長期にわたり活動を続けることが出来ました。改めて御礼申し上げます。
今回は10周年記念セッションということで、本研究会の第一回目の立ち上げ会にて最初にご講演いただいた本間正充先生(現NIHS所長)に特別に講演いただきます。演題はICH-M7の最新の現状に関するご講演です。ICH-M7は計算毒性学研究会の発足と同じ2014年にICH (医薬品規制調和国際会議)にて制定された国際的な化合物不純物に関する規制です。なお、毒性評価にコンピュータ技術を導入(計算毒性学)している点で極めて画期的なものです。なおご講演場所は10年前と同じ研修室です。
また、計算毒性学研究会はADMETと称されるように、ADMEと毒性を含めた総合的な討論が可能となるように2023年より「計算ADMET研究会」と名称を変更しております。この現状に従いまして今回のCBI学会大会長である、水口賢司先生にADME 関連研究実施に重要となるデータベースに関する総合的な講演をいただけます。
計算ADMET研究を取り巻く環境は、今後さらに大きな変化や発展を遂げるものと考えます。計算毒性学研究会は、主査が湯田から植沢先生へと代わります。名称も「計算ADMET研究会」として活動範囲を広げ、より多くの研究者の方々と共に討論して新たな情報時代に対応し、世界に負けない実績を出してゆくものと期待しております。多くの研究者の皆様のご支援をお願いいたします。

モデレーター

湯田 浩太郎(株式会社インシリコデータ)
植沢 芳広(明治薬科大学)

演者

FS03-01

湯田 浩太郎
(株式会社インシリコデータ)

「日本で最初の「計算毒性学」研究会の発足から、10年間の経過に関する考察」

本研究会は日本最初(現時点でも1機関のみ)の「計算毒性学」を討論主題とする機関として2014年にCBI学会傘下の研究会として発足した。日本における計算毒性学の討論や情報交換の場所として研究者の方々の支援を受け、重要な役割を担ってきました。
計算毒性学は様々な技術の連携が必要で、典型的な融合研究となります。10年という期間は、計算毒性学を構成する様々な技術の分野での急速な進歩や発展をもたらしただけでなく、毒性学自体の内容や、実施技術等にも大きな変化や発展が生じてきました。このような技術の変化について、10年間の流れや進歩を俯瞰することも、今後の「計算毒性学」の展開において重要になると考えます。

FS03-02

本間 正充
(国立医薬品食品衛生研究所)

「ICH-M7ガイドラインの現状と構造活性相関の利用」

2014年に制定されたICH-M7ガイドライン「潜在的発がんリスクを低減するための医薬品中 DNA反応性(変異原性)不純物の評価及び管理」では、変異原性の評価に構造活性相関(SAR)の利用が推奨された。これは、化学物質の安全評価において、生物学的試験に替わりSAR利用が認めれた世界初のガイドラインである。これを機にSARによる変異原性の予測精度は飛躍的に進化した。最近では新たな不純物としてN-ニトロソアミン化合物が問題となっており、近々、ICH-M7で補遺の策定が開始される。ここでは、N-ニトロソアミン化合物の構造特性からその変異原性(発がん性)の強さを予測し、許容限度値を設定するCarcinogenic Potency Categorization Approach (CPCA)の利用などが議論される。これにより変異原性SARは新たに変異原性QSARへ進化するかもしれない。

FS03-03

水口 賢司
(大阪大学 蛋白質研究所)

「薬物動態の統合解析プラットフォームDruMAP」

アカデミア創薬においては、企業が行っているように様々な薬物動態評価系や毒性評価系を常に稼働させておき、必要なデータを取得することは難しい。そこで我々は、創薬研究初期における薬物動態の予測を目的としたインシリコの統合解析プラットフォーム(データベースと複数の予測モデルから成るシステム)DruMAPの構築を推進してきた(https://drumap.nibiohn.go.jp; Kawashima et al., J. Med. Chem., 2023)。薬物動態モデリングにおいては、質・量の整った公共データセットの不足から、高精度の機械学習モデルの作成が進んでこなかった。中枢移行性予測の精度向上や(Watanabe et al., J. Med. Chem., 2021)、企業連携により秘匿性の高いデーを共有・利用することの意義と課題(Kuroda et al., Drug Discov. Today 2022)を含めて、データキュレーションのためのAIの活用、多面的なモデリング技術の応用についても議論したい。

FS03-04

植沢 芳広
(明治薬科大学)

「計算ADMET研究会10周年記念 - 将来展望」

計算ADMET研究会(旧・計算毒性学研究会)は、設立10周年を迎えた。この間、本研究会は活発な議論と知識交換の場として成長を遂げ、現在では化学物質の毒性と体内動態に関する知見を包括的に共有する場となっている。新規化学物質の安全性評価や環境毒性の予測など、本研究領域は人々の生活に直結する重要課題と深く関わっており、その重要性は今後ますます高まると確信している。
人工知能技術をはじめとするin silico技術の飛躍的進歩により、複雑な体内動態・毒性の予測に関する可能性が大きく広がっている。この潮流を捉え、多様な分野の最新成果を結集し、領域の垣根を越えた創造的な知の融合を目指す。
10周年を機に、これまでの成果を礎としつつ、さらに産学官の垣根を越えた協力関係を強化し、革新的な研究成果の創出と実用化を推進していきたい。今後とも、本研究会へのご支援とご参加を心よりお願い申し上げます。

FS04 医療データAI解析実践フォーラム

医療データAI解析実践フォーラム

10月30日(水) 14:00〜15:30 タワーホール船堀4F 401

AI関連技術は日進月歩で進化しており、その医療データ解析への応用は、研究デザイン、データ収集、データ処理、統計解析、モデルの適用などを含め、パラダイムシフトが必要である。本フォーラムでは、医療データのAI解析の中でも精密医療の実現に向けた最新技術とその応用、疾患の層別化や新たな治療法の開発に向けた取り組みなどのために、最先端のAI解析に実際に取り組んでいる研究者が研究発表を行い、最新の技術情報共有を行う。医療データAI解析に実際に取り組んでいる研究者、これから始めようという研究者にぜひご参加いただき、医療データのAI解析を実践している研究者の交流の場としてオープンに議論したい。

モデレーター

水野 聖士(東北大学)
小島 諒介(京都大学)
荻島 創一(東北大学)

演者

FS04-01

河添 悦昌
(東京大学)

「電子カルテ記録と自然言語処理を活用した薬効探索」

市販後医薬品の安全性を継続的に監視するために、長期に渡るPost-Marketing Surveillance(PSM)が必要となる。そこで、EMRを活用したPMSが注目されるが、病名コードや検体検査結果の組み合わせでAdverse Event(AE)を定義する方法では、病名として登録されにくい症状や所見に相当するAEを解析対象とすることが困難である。本講演では、longitudinalなEMRを活用し、診療テキストから自然言語処理によって抽出されたAEをシグナルとし、他の構造化データを組み合わせて統計解析することで、市販薬の新たな薬効を探索するためのフレームワークとこれまでの成果について紹介する。

FS04-02

中津井 雅彦
(山口大学)

「医用AIの臨床導入のための臨床意思決定支援システム(CDSS)-AI連携フレームワークの開発」

臨床現場での医用AI活用には、電子カルテや臨床意思決定支援システム(CDSS)との連携が不可欠である。我々は、2020年から医用AIと医療情報システムを連携できる汎用フレームワークを開発し、2022年8月から副作用原因薬推定AIを題材としたテスト運用を開始した。本フレームワークは、患者イベント検知やバッチ処理等に基づくCDSSからのAI実行要求を独立したAIサーバで処理し、推定結果を医療情報システム上で通知する。連携フレームワークの実装・改修と医用AIの臨床導入試行状況、課題について紹介する。

FS05 分子ロボティクス研究会

動け、細胞/人工細胞

10月30日(水) 14:00〜15:30 タワーホール船堀4F 407

分子ロボティクス研究会では、人工的な生体分子システムを合理的な設計に基づいて作製することを目標としている。その際の鍵となる機能に”動く”がある。天然の細胞は、細胞骨格系を用いて、自律的に運動する事が可能であり、その天然のシステムを改変したり、模倣したりする事で、人工的なシステムに”動く”機能を実装する事が可能になると期待される。本セッションでは、細胞運動や筋肉を司るアクチン・ミオシン系(アクトミオシン系)に焦点を当て、気鋭の研究者に御発表いただく。前半2題は、光等のシグナルに応じて、アクチンの重合・脱重合を制御し、細胞/人工細胞の変形や、形態形成のお話を山本昌平先生(東大)と松林英明先生(東北大)より御紹介いただく。後半の1題は、細胞運動に必要な要素を一旦バラバラに分解し、機能発現に本質的と考えられる要素から細胞運動を再構成する構成的手法に関して、宮﨑牧人先生(理研)より御発表いただく。本セッションでご紹介いただく細胞操作技術と、再構成技術の連携を通し、真に”うごく細胞/人工細胞”を早期に実現する方法・展望に関して広く御討論いただきたい。

モデレーター

多田隈 尚史(上海科技大学)
川又 生吹(京都大学 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻)
佐藤 佑介(九州工業大学 情報工学部)
小宮 健(海洋研究開発機構
豊田 太郎(東京大学 大学院総合文化研究科)

演者

FS05-01

山本 昌平
(東京大学 大学院薬学系研究科)

「光操作による細胞皮層構築原理の探求」

細胞皮層は、主に細胞膜に係留されたアクトミオシンからなり、細胞の遊走や形状変化を駆動する。これまでに、細胞皮層を構成する因子が同定されてきたが、その構築原理や時空間的な制御については、未解明な点が多く残されている。我々は、光感受性化合物を用いて、ヒト細胞の細胞皮層を局所的かつ一過的に操作する技術を開発した。本発表では、この技術を用いて明らかになった細胞皮層の構築機構やその応用について議論したい。

FS05-02

松林 英明
(東北大学 学際科学フロンティア研究所)

「アクチンによる力発生と細胞運動の再構成」

非対称なアクチンの重合やそれによる力の発生は細胞の運動や、分裂、神経細胞ネットワークの形成など多様な生命現象の基盤をなす細胞機能である。我々は、このような動的な細胞機能を構成的に理解するため、アクチン重合を操作するための分子ツール「ActuAtor」を開発した。ctuAtorは哺乳類細胞内で標的オルガネラの変形を誘導し、脂質膜小胞(GUV)型の人工細胞系では外部シグナルに応じた対称性の破れや、膜変形を可能にした。さらに、光誘導型のアクチン重合によって人工細胞の変形や運動を誘導する取り組みについて、最新の知見を紹介したい。

FS05-03

宮﨑 牧人
(理化学研究所生命機能科学研究センター)

「アクトミオシンが駆動する細胞運動の再構成」

細胞運動は、個体の正常な発生やがん細胞の浸潤などに関わる重要な生命機能であり、その仕組みの解明は基礎科学のみならず医学的にも重要である。私たちは、生きている細胞を一旦バラバラに分解し、機能発現に本質的と考えられる要素から生命機能を再構成するという構成的手法で、細胞運動仕組みの解明に挑んでいる。本講演では我々の最新の研究成果を概説し、今後の展望について議論する。

FS06 幹細胞とAIを用いた毒性予測の新アプローチ法の紹介:第2弾

幹細胞とAIを用いた毒性予測の新アプローチ法の紹介:第2弾

10月31日(木) 14:00〜15:30 タワーホール船堀4F 研修室

昨年、幹細胞研究と人工知能(AI)を融合した新しいアプローチによる化学物質の毒性予測法、StemPanTox alphaの開発概要を紹介した。今年のセッションでは、さらに、毒性予測の受託サービス事業化に向けたStemPanTox betaの開発状況について詳しく紹介する。

モデレーター

曽根 秀子(横浜薬科大学)
永堀 博久(住友化学)

演者

FS06-01

加藤 毅
(群馬大学)

「StemPanTox alpha及びStemPanTox betaに搭載の機械学習の種類と比較検討」

幹細胞による毒性予測システムStemPanToxを活用するには,予測モデルの訓練,訓練済み予測モデルの性能評価が必要となる.そのために,我々のプロジェクトでは,将来の新たな測定データに対しても利用可能な実行パイプラインを開発してきた.これまでに本プロジェクトで採用してきたパイプライン上の部品は,あらゆる毒性の予測に最適であるとは限らない.そこで,利用者が部品を選択できるようにするため,手始めに学習モデルの選択肢を追加することにした.本プロジェクトでは,新たに開発したソフトウェアをステムパントックスベータと名付けた.本発表では,ステムパントックスベータで新たに何ができるようになったか,また,部品を変更したときの予測性能を報告する.

FS06-02

中村 文彬
(UssioBIO)

「StemPanToxによる化粧品成分の安全性評価」

天然化合物には多様な生物活性が知られており、医薬品や機能性食品の原料として用いられてきた。これらの機能性を有効利用するにあたり、近年、長期毒性の把握が求められるようになってきた。そこで、本セッションでは、機能性天然化学合物について、StemPanToxを用いて長期毒性予測を行った結果について紹介する。

FS06-03

中尾 洋一
(早稲田大学)

「StemPanToxを用いた天然化学合物の生物活性と長期毒性の予測」

天然化合物には多様な生物活性が知られており、医薬品や機能性食品の原料として用いられてきた。これらの機能性を有効利用するにあたり、近年、長期毒性の把握が求められるようになってきた。そこで、本セッションでは、機能性天然化学合物について、StemPanToxを用いて長期毒性予測を行った結果について紹介する。

FS07 先端的計測技術(1)(2)

先端的計測技術(1)(2)

10月31日(木) 13:30〜16:00 タワーホール船堀4F 407

【このセッションは通常枠より早く13:30に開始します】
近年、抗体医薬品、核酸医薬品などのバイオ医薬品の開発が盛んである。生体高分子をベースにしたこれらの医薬品はより複雑な分子作用機序や分子動態を示すので、開発においては、その計測や評価モデル系構築が鍵となる。本フォーカストセッションでは、気鋭の研究者に御発表いただく。前半は高感度・高精度な生体計測に関して、後半は細胞の操作に関して、広く御討論いただきたい。
前半2題は、高感度・高精度な検出について、ご発表いただく。まずはAIとナノポア技術を基盤とした、蛋白質シークエンサーに関して、元根啓佑先生(大阪大学)からご発表いただく。続いて、平井義和先生(京都大学)より、薬効や毒性の評価指標となる細胞単層のバリア機能を,非侵襲・リアルタイムに評価する経上皮電気抵抗(TEER)計測に関してご紹介いただく。
後半の4題は、新規の薬物動態・安全性の評価系として生体計測と連携が期待される臓器モデルの構築や生体計測について、ご発表いただく。はじめに戸田聡先生(大阪大学)より、人工受容体と蛍光蛋白質GFPを細胞間シグナル分子に見立てた人工モルフォゲン系に関してご発表いただく。坡下真大先生(名古屋市立大学)より、ヒトiPS細胞から作製したヒトBBBモデルの有用性に関してご発表をいただく。そして、佐倉武司先生(島津製作所)より、AIに支援された細胞観察解析ソフトウェア(Cell Pocket)と、そのスフェロイド観察への話題を御紹介いただく。最後に、竹内康造先生(浜松ホトニクス)より、光回折トモグラフィ(Optical Diffraction Tomography、ODT)による細胞やスフェロイド観察に関して、ご発表いただく。
前半でご紹介いただく高感度・高精度な生体計測技術と、後半の臓器モデルを活用した生体計測との連携と、新規の薬物評価系への展開に関して広く御討論いただきたい。

モデレーター

多田隈 尚史(上海科技大学)
石田 誠一(国立医薬品食衛生研究所 / 崇城大学生物生命学部)
藤田 聡史(産業技術総合研究所 生命工学領域 先端フォトニクス・バイオセンシングOIL)

演者

FS07-01

元根 啓佑 【13:30-13:55】
(大阪大学工学研究科生物工学専攻)

「次世代タンパク質シーケンサーの創出に向けたナノポア計測技術の開発」

「次世代タンパク質シーケンサー」と呼べるものは未だ存在しない。次世代DNAシーケンサーの登場は生命科学を一変させたが、プロテオミクス分野においてそのような非連続的な変化は、質量分析法によるパラダイムシフトが起きた1980年代以降起きていない。我々は今まさにプロテオミクスを変革すべき時代に差し掛かっているのではないだろうか。本発表では、ハイスループット1分子計測センサーであるナノポアを用いたタンパク質計測技術を紹介する。

FS07-02

平井 義和 【13:55-14:20】
(京都大学大学院工学研究科機械理工学専攻)

「トポロジー最適化による経上皮電気抵抗計測用電極の設計」

マイクロ流体技術とヒト由来細胞を使った組織チップでは,薬効や毒性の評価指標となる細胞単層のバリア機能を,非侵襲・リアルタイムに評価する経上皮電気抵抗(TEER)計測のオンチップ化がアンメットニーズである。本発表は,組織チップで高精度TEER計測ができる電極レイアウト(寸法・形状・配置)の最適化について,新しいマルチマテリアルトポロジー最適化の技術を応用して開発した結果を報告する。

FS07-03

戸田 聡 【14:20-14:45】
(大阪大学蛋白質研究所)

「細胞間コミュニケーションの操作による多細胞パターンのデザイン」

私たちは細胞間コミュニケーションのルールを設計して細胞集団のふるまいを検証することで、組織形成の仕組みの理解や新たな組織構築技術の開発を目指しています。これまでに、蛍光分子GFPを細胞間シグナル分子に見立てて、細胞がGFPを分泌し、GFPを受け取った細胞に遺伝子発現を誘導する「人工モルフォゲン系」を樹立した。本発表では、構成論的アプローチにより見えてきた多細胞パターン形成の仕組みについて議論します。

FS07-04

坡下 真大 【14:45-15:10】
(名古屋市立大学薬学部)

「iPS細胞由来脳毛細血管内皮様細胞を用いた創薬応用を目指して」

血液脳関門は、脳毛細血管内皮細胞、脳ペリサイトとアストロサイトから構成され、内皮細胞間の強固な細胞間接着によって医薬品などの脳内への透過を制御している。2012年にヒトiPS細胞由来脳毛細血管内皮様細胞が開発され、さらに我々は、この分化誘導方法を改良し従来の細胞に比べて極めて高い機能性を有することを報告した。本講演では、この細胞を用いた創薬応用への可能性についてご紹介したい。

FS07-05

山本 周平 【15:10-15:35】
(島津製作所 分析計測事業部 ダイアグノスティクス事業統括部 細胞ビジネスユニット)

「細胞スフェロイドの光学観察による分化段階の評価」

再生・細胞医療の産業化において、非侵襲かつ経時的に細胞状態を評価する手法の重要性が高まっている。その理由として、原材料となる多能性幹細胞が不均一な集団であること、これらが培養過程において刻々と状態変化することが挙げられる。本発表ではヒトiPS細胞由来内胚葉分化スフェロイドの分化過程において光学観察と画像解析を用いた、形態と光学的特性に基づく分化段階の評価事例を紹介し、その有効性について議論する。

FS07-06

竹内 康造 【15:35-16:00】
(浜松ホトニクス株式会社 中央研究所)

「スフェロイドの非染色三次元観察、及び微量血液中の好中球活性計測」

本演題では、演者がこれまで取り組んできた二つの光計測技術と、それらの使用実績を紹介する。(1)高深達な非染色三次元観察技術「インシリコ透明化屈折率トモグラフィ」を開発し、HepG2スフェロイドに形成された毛細胆管の特徴を明らかにした。(2)極微量血液に含まれる好中球の活性を、蛍光発光同時計測によりモニターするシステムの開発、及び臨床研究を行い、脂肪負荷等が好中球活性に与える影響を明らかにした。これらの技術の応用性について議論したい。

FS08 オミックスの原理研究会

「オミックスの原理」研究会

10月31日(木) 14:00〜15:30 タワーホール船堀4F 406

ゲノム解析技術の発展により種毎あるいは個人毎の全ゲノムは確実に得られるようになりました。このFSでは、これまでオミックスのデータから、生物全体がどのように設計されているか?という「原理的な問題」を中心に議論してきました。本年2月にそれらをまとめた著書がSpringerから出版されました。今回のFSでは、著者等(美宅と澤田)が著書の内容を解説し、議論を深めたいと思います。さまざまな分野の方々に参加していただければ幸いです。

モデレーター

美宅 成樹(名古屋大学名誉教授) 
広川 貴次(筑波大学)
荻島 創一(東北大学高等研究機構未来型医療創成センター/東北メディカル・メガバンク機構)

演者

FS08-01

美宅 成樹
(名古屋大学名誉教授)

「“Evolution seen from the phase diagram of life” by S Mitaku & R Sawada
生物の原理を扱った「Springerの著書」の解説と将来の展望
著書執筆の動機と経緯について」

CBI学会のFSで毎年議論してきた『生物の原理』の問題は、より広く国際的に紹介するべきものと考え、数年前から英文の著書をまとめてきました。Springerへの企画書自体は、5年以上前に通っていたのですが、いくつかの事情でかなり遅れ、ようやく本年2月に出版の運びになりました。最初の原稿では生物の原理の問題だけを扱い、現在の生物科学との関係が分かりにくくなっていたことが、出版が遅れた原因の一つでした。それで、FSの冒頭でも著書(4部構成)の第1、2部の部分をごく簡単に説明します。

FS08-02

澤田 隆介
(岡山大学)

「膜タンパク質予測から『生命の相図』へ」

21世紀に入って多くの生物のゲノム配列が得られるようになったので、様々な生物のゲノム中の膜タンパク質を調べてみたところ、おおよそ25%という一定な割合で分布していることが示されました。どのような進化的メカニズムで膜タンパク質の割合が一定に保たれているかを調べるために、高精度膜タンパク質予測システムSOSUIを用いて、配列のランダム変異シミュレーション解析を行いました。その結果、膜タンパク質の割合を一定に保つためには、コドン位置ごとのゲノム塩基組成が重要であることがわかってきました。そこで様々な生物に関してコドン位置ごとの塩基組成をプロットすることで、『生命の相図』を定義することができました。

FS08-03

美宅 成樹
(名古屋大学名誉教授)

「『生命の相図』による進化の理解と、生物機能への展望」

前のお話では、ゲノム配列から『生命の相図』が導入されました。そこで次に『生命の相図』に基づいて、さらに詳細にゲノムを解析すると、生物進化のメカニズムの一端を示します。まず、塩基組成が細胞内因子によって決まることは、ウィルスゲノムの解析によって明らかにされました。そして、組成を決める細胞内因子に対する変異によって、ターゲットとしてのゲノム全体の塩基組成がジャンプします。それにより、新しい生物種が誕生することになります。 最後に、ゲノム全体での塩基組成を決めるメカニズムについても考察したいと思います。それによって、生物の機能と『生命の相図』との関係も見えてくるはずです。

FS09 若手の企画フォーカストセッション

計算科学業界のキャリアチェンジについて語ろう~ウェットからドライ、アカデミアから企業~

10月31日(木) 14:00〜15:30 タワーホール船堀3F 307

CBI学会には、企業とアカデミアの研究者が約半数ずつ登録しており、ドライ研究者だけでなくウェット研究者も多く参加しています。これまでCBI若手の会では、CBI学会誌のコラム「CBIキャリア」を通じて、アカデミアと企業両方を経験した先生方のお話を紹介してきました。本日は、コラム「CBIキャリア」の内容を紹介するとともに、ウェット研究/ドライ研究やアカデミア/企業についてのアンケート結果を紹介いたします。また、ウェット研究とドライ研究両方の研究経験を持つ研究者の方々の経験談を聞かせて頂き、それぞれの違いとキャリアやワークライフバランスに与える影響などについて考えます。特に、ドライ研究に関心のある研究者やキャリアチェンジを検討している研究者、将来研究者になる若手の方々が、より意識的に将来のキャリア選択を行い、自分に合った働き方を見つけるための参考になることを目指して企画しました。

モデレーター

渡邉 怜子(大阪大学 蛋白質研究所)
熊澤 啓子(帝人ファーマ株式会社
高橋 一敏味の素株式会社

演者

FS09-01

渡邉 怜子
(大阪大学蛋白質研究所)

「ウェットからドライへ:アカデミアでの研究分野転向の体験談」

博士号取得までは完全にウェット研究に従事していましたが、研究を進める中でAIの重要性を感じ、ドライ研究に転向しました。本発表では、転向の背景やその後アカデミアで研究を続けていく上でのキャリアとワークライフバランスへの影響、そしてウェットとドライ研究の相互補完性についてなどをお話しします。

FS09-02

道木 和也
(小野薬品工業株式会社)

「AIが導く創薬キャリア」

私は2018年に天然有機化合物の合成研究で博士号を取得しました。その後、現職でプロセス化学と医薬品化学の研究に従事し、2023年からは計算化学者として創薬研究を行っています。私がウェット研究からドライ研究へキャリアチェンジしたきっかけは、AIベンチャーとの創薬提携で得た知見を自社の創薬研究に活用したことが大きな要因です。本講演では、私のキャリアを通じて得た教訓を紹介するとともに、研究の輪を広げることの大切さを皆さんにお伝えします。