シンポジウム
S01 シンポジウム
若手研究者によるAMED/BINDSインシリコ解析ユニットにおける創薬支援・高度化研究
10月24日(火) 17:10-18:40 タワーホール船堀 5F 大ホール
令和4年4月よりAMEDのプロジェクトBINDS(生命科学・創薬研究支援基盤事業)事業が開始されました。本プロジェクトでは、優れた研究成果を創薬研究などの実用化研究開発に繋げることを目的に、6つの研究領域別ユニット(構造活性、発現・機能解析、ヒット化合物創出、モダリティ探索、薬効・安全性評価、インシリコ解析)から構成され、最先端の生命科学・創薬研究を推進するための高度な研究支援を行っています。
本セッションでは、シミュレーション、AI、インシリコスクリーニングやデータ駆動型生命科学等による支援と高度化を行うインシリコ解析ユニット8課題の中から、特に若手研究者より、インシリコユニットの支援・高度化研究の成果を発表していただきます。
モデレーター
広川 貴次(筑波大学)
演者
S01-01
井上 雅郎
(横浜市立大学・院生命医科学)
「マルコフ状態遷移モデルを用いた上皮成長因子受容体キナーゼの活性化メカニズムの研究」
様々な癌との関連が報告されている上皮成長因子受容体(EGFR)のキナーゼドメインは、活性化の際にアシンメトリックダイマーを形成し、レシーバー側のキナーゼが活性化される。この活性化に伴う構造変化のメカニズムを、経路探索MD(STRING法)とマルコフ状態遷移モデルを用いて詳細に調べた。その結果、不活性状態から中間状態、活性状態へというレシーバーの段階的な構造変化と、ダイマー界面の構造変化の関係を明らかにできた。
S01-02
Kumar Amarjeet
(量子科学技術研究開発機構 量子生命科学研究所)
「NSD2変異体によるヌクレオソーム H3K36メチル化異常亢進のメカニズム」
Aberrant H3K36 hypermethylation due to point mutations in NSD2 (E1099K, T1150A) are linked to various forms of cancers. Understanding the mechanism of H3K36 hypermethylation would facilitate the designing of NSD2-specific inhibitors. We studied the nucleosome-bound structures of the NSD2 wild-type and mutants using Molecular Dynamics simulations. Our study suggests that the open-close dynamics of the autoinhibitory loop in NSD2 is regulated by i) a network of electrostatic interactions (salt-bridges) within the SET domain and between the SET domain and the nucleosomal DNA and ii) interactions between the hydrophobic residues of the autoinhibitory loop and the NSD2 SET domain hydrophobic patches. The mutations in NSD2 reorganize the network of electrostatic interactions and the interactions between the autoinhibitory loop and hydrophobic patches, thereby causing the autoinhibitory loop to assume open conformation more frequently. An open autoinhibitory loop conformation may facilitate frequent H3 tail binding and H3K36 hypermethylation.
S01-03
渡邉 千鶴
(国立研究開発法人 理化学研究所)
「FMO法に基づく創薬支援・情報基盤技術の開発」
量子化学計算手法の一種であるフラグメント分子軌道(FMO)法を用いた相互作用解析は、電子の挙動まで考慮した詳細な相互作用を定量的に評価出来る。そのため創薬ターゲットタンパク質に対する阻害剤や抗体などの分子認識機構の解明において、相互作用解析支援ツールとして利用が広まっている。ここでは、FMO計算によるBINDS支援事例、加えて創薬AIなどに活用可能な量子化学計算データ蓄積のためのFMOデータベース(FMODB)構築に向けた情報基盤技術について紹介する。
S01-04
大上 雅史
(東京工業大学)
「AlphaFold2を活用した分子設計」
AlphaFold2による高精度なタンパク質立体構造予測が実現し、生命科学・創薬研究は大幅に加速した。単鎖のタンパク質配列からの立体構造のモデリングのみならず、タンパク質複合体予測、ペプチド-タンパク質ドッキング、ペプチド配列スクリーニング、抗体モデリングなど、創薬に関わる様々な問題にAlphaFold2が応用されている。本講演では、AlphaFold2を中心としたインシリコ解析技術について、我々の取り組みとともに紹介する。
S02 シンポジウム
学術変革領域研究(A)天然物が織り成す化合物潜在空間が拓く生物活性分子デザイン
10月25日(水) 17:10-18:40 タワーホール船堀 5F 大ホール
2023年度より、科研費 学術変革領域研究(A)として「天然物が織り成す化合物潜在空間が拓く生物活性分子デザイン」(潜在空間分子設計)がスタートしました。天然物と合成化合物ライブラリーを活用した生物活性分子はケミカルバイオロジーの発展の駆動力となってきましたが、本領域ではこれらに続く第3のリソースとして化合物潜在空間(Latent Chemical Space)を提案し、天然物と情報学研究との融合によってデータ駆動型ケミカルバイオロジー研究を推進します。本セッションでは、当領域の概要と各計画研究班での取り組みについて紹介します。
モデレーター
菊地 和也(大阪大学)
鎌田 真由美(京都大学)
大上 雅史(東京工業大学)
演者
S02-01
菊地 和也
(大阪大学)
「領域挨拶および領域概要と研究計画」
天然物(第1)と合成化合物ライブラリー(第2)という2つの化合物リソースを活用した生物活性分子の発見・同定は,化学と生物学の融合分野であるケミカルバイオロジー研究推進の駆動力となってきた.本領域では,これらに続く第3のリソースを提案する.この第3のリソースは,天然物の生物活性データを基に深層学習技術によって構築される化合物潜在空間(Latent Chemical Space)からバーチャルに創成され,強固な有機合成技術で実空間に具現化されるものである.この実現に向け,ケミカルバイオロジー,情報科学,有機合成の3班構成による「サイバー生物活性分子デザインラボ」を始動する.この第3のリソースから創出される化合物を起点とし,新しい生命機能解明や医薬・農薬シーズに結び付く画期的分子を高効率に開発できる生物活性分子デザイン法の新学理構築を目指す.
S02-02
出井 晶子
(国立研究開発法人 理化学研究所)
「化学遺伝学評価系に基づく化合物潜在空間の生物活性検証と作用機序解明」
多種多様な有機化合物の構造に対し,生物活性を予測しうる法則性を見出し,精度の高い予測技術を確立することができれば,生物活性分子デザイン法の開発が可能となる.当班は,化学遺伝学に基づく標的分子の作用機序解明や,大規模な化合物評価による構造活性相関データの取得を通じ,各種化合物に対するマルチモーダルデータを提供することを目的とする.化合物潜在空間構築技術の確立に向けた取り組みについて,研究計画や検討中の事例を紹介する.
S02-03
榊原 康文
(慶應義塾大学)
「化合物潜在空間の構築によるバーチャル化合物構造の探索と設計」
化合物潜在空間は,化合物構造を数学的空間に射影したものであり,化合物ライブラリー内の構造的多様性を表現し,新たな化合物構造を生成することができる.天然化合物に見られるような複雑な化合物構造を取り扱う化合物潜在空間を構築できる既存手法は存在しない.本研究では,天然化合物を扱うための変分自己符号化器に基づく新しい深層学習法,NP-VAEを開発し,キラリティを含む大きく複雑な化合物構造を射影する化合物潜在空間を構築した.
S02-04
大上 雅史
(東京工業大学)
「Beyond Rule-of-Five空間のAI分子設計」
天然物ケミカルバイオロジーの発展によって,天然物から革新的な生物活性分子が見出されてきた.これら天然物の多くは経口医薬品に関するリピンスキーのRule-of-Five則を満たさず,Rule-of-Fiveの外の空間,すなわち Beyond Rule-of-Fiveに位置する.我々のAI分子生成による化合物設計やAlphaFoldによる分子設計の事例から,Beyond Rule-of-Five空間に眠る革新的な化合物の獲得に向けて何ができるか議論できれば幸いである.
S02-05
塚野 千尋
(京都大学大学院 農学研究科)
「アロタケタール類の単純化アナログの設計、立体異性体の系統的合成とPKC結合活性」
セリンスレオニン特異的リン酸化酵素であるプロテインキナーゼC (PKC) は,がんやエイズなどの難治性疾患の治療標的として注目されている.最近,我々は,榊原(慶大理工)らと共同で機械学習モデルを用いたPubChemデータベースのスクリーニングにより,海綿由来のアロタケタール類が新規PKCリガンド候補化合物であると予測した.本発表では,アロタケタールを簡略化した単純化アナログの設計と系統的合成およびそれらのPKCアイソザイムC1ドメインに対する結合試験の結果を紹介する.
S03 シンポジウム
MPS(生体模倣システム)の今後の展開を考える
- MPSの感染症研究への展開の最先端 -
10月26日(木) 13:30〜15:00 タワーホール船堀2F 福寿
Microphysiological Systems (MPS:生体模倣システム)は、スライドガラスからマルチウェルプレートのサイズの培養器に配置された複数の培養コンパートメントに様々な臓器由来細胞を培養し、培地を循環させることで組織や臓器内の血液の流れを模倣し、血流が細胞に及ぼす力学的影響と共に、細胞の栄養素や代謝老廃物、または薬剤などの物質移動の影響をin vitroで再現できる培養装置である。動物試験を主としてきた医薬品開発や食品、化粧品、化学物質の安全性評価における次世代の評価系として、製薬企業をはじめとして、世界のライフサイエンス業界がその研究の動向に注目している。国内ではAMEDの支援のもと、MPSの社会実装と行政的利活用を目指したプロジェクトが開始されている(AMED-MPS2プロジェクト、MPS-RSプロジェクト)。
そのようななか、本シンポジウムではMPSの感染症研究への展開に焦点を当てる。COVID-19パンデミックで広く認識されたように、今後は世界規模で感染症との取り組みが求められている。既に、米国ではNICEATM(National Toxicology Program Interagency Center for the Evaluation of Alternative Toxicological Methods)らによりMPSCoRe (Microphysiological Systems for COVID Research) working groupが組織され、活発な議論がなされてきている。
感染症研究は、予防、発症メカニズムの探求、ワクチンや抗ウイルス薬の開発などヒトを対象とするだけでなく、自然宿主となる動物種での研究など広範囲におよび、ヒトや動物を模倣する事が可能なMPSの活躍が求められている。
そこで、本シンポジウムでは、まず感染症研究へのMPSの適用の現状を紹介した後、国内で第一線で活躍されるお二人の研究者より、最新の研究成果についてご報告をお願いし、MPSの感染症研究への展開について議論したい。
モデレーター
石田 誠一(崇城大学大学院)
山崎 大樹(国立医薬品食品衛生研究所)
演者
S03-01
石田 誠一
(崇城大学大学院)
「始めに:MPSと感染症研究」
S03-02
高山 和雄
(京都大学iPS細胞研究所)
「MPSを活用した新興再興感染症の病態解明研究と創薬研究」
S03-03
永元 哲治
(HiLung株式会社)
「肺の形成・機能・感染における三次元構造の重要性と、Pandemic preparednessへの応用」