フォーカストセッション
FS01 計算ADMET研究会
毒性・副作用関連研究の新展開
10月24日(火) 13:30〜15:00 タワーホール船堀4F 研修室
医薬品や一般化学物質の毒性・副作用は開発中止や市場撤退と関連する重要な課題である。開発初期における動物実験はコスト、時間、倫理等の問題を有するため、スループット性の高い代替手法の開発が求められている。化学構造等の限られた情報から極めて高速に毒性予測が実施可能なin silico手法はその重要な選択肢となっている。本フォーカストセッションが、毒性・副作用に関連する生理現象をin silico技術を用いて解明・解析・予測する最先端の研究について、多様な分野間で議論を深める場となることを期待したい。
モデレーター
植沢 芳広(明治薬科大学)
永堀 博久(住友化学)
演者
FS01-01
植沢 芳広
(明治薬科大学)
「計算ADMET研究会(旧・計算毒性学研究会)主査就任の挨拶と今後の展望」
計算ADMET研究会は前主査の湯田浩太郎先生によって2014年に計算毒性学研究会として設立されました。当時、日本においては計算毒性学に関する認知度が極めて低い状況でしたが、多くの皆様のご協力のもと、本研究会は活発な議論の場となって参りました。一方、体内動態と毒性に対する包括的な把握は、毒性発現メカニズムに対する理解とそれに基づく効率的な医薬品をはじめとした機能性分子の安全性評価のために重要です。そこで、2023年1月には、毒性とともに化学物質の体内動態に関する知見を包括的に情報共有する場として、計算毒性学研究会は計算ADMET研究会へと改称され、現在に至ります。新規化学物質の開発における安全性や環境毒性の評価など、人々の生活に直結する問題と深く関わっていることから、本研究領域は今後ますます重要性を増していくと考えられます。
人工知能技術をはじめとする計算科学の進歩はまさに日進月歩であり、従来は困難であった複雑な体内動態・毒性に関する予測の可能性はますます拡がりを見せています。このような背景から、ADMET研究会では多様な分野における多くの研究成果を共有していきたいと考えております。広範な研究領域の連携を通じて、本研究会が更に発展していくことを願っております。
FS01-02
小川 慶子
(立命館大学)
「化学構造から有害事象へ:解釈可能なマルチタスク深層学習による有害事象の発現予測」
医薬品による有害事象は健康被害や治療の中断に繋がるため、その発現リスクをなるべく早く察知することが求められる。有害事象を起こすリスクが高いアラート構造を事前に予測することができれば、医薬開発の早い段階で不適切な候補物質を除外することができる。そこでアラート構造を視覚的に認知できるよう、グラフ畳み込みニューラルネットワーク(GCN)を利用した有害事象の発現予測が有効であると考えた。GCNでは化学構造をグラフ構造に変換することで、近傍のみならず遠隔の部分構造や原子の情報も加味した予測が可能となる。FDAが公開する自発報告データベースFDA Adverse Event Reporting System (FAERS) から副作用情報を抽出し、医薬品のグラフ構造から複数の有害事象の発現を同時に予測するマルチタスクモデルを構築した。本発表では、化学構造からマルチタスクに有害事象の発現を予測する取り組みを紹介する。くわえて、グラフ構造を利用した可視化により、有害事象の発現に寄与する化学構造の特徴について考察する。
FS01-03
半田 耕一
(帝人ファーマ株式会社 動態・安全性研究部)
「機械学習モデルの薬物動態及び毒性分野での創薬利用」
近年、機械学習モデルの創薬利用が進展し、様々な薬物動態 (ADME) パラメータの予測に関する論文が発表されている。しかしながら、創薬プロセスに沿って、各段階での予測モデルの必要性を考えた時、どのようなモデルが創薬研究に有用なのかについて判断することは容易ではない。そこで、本発表ではまず近年発表されているADMEに関わる機械学習モデルの傾向とその重要性についてまとめて紹介する。これを踏まえた上で我々がこれまでに取り組んできたいくつかの個別の研究課題 (動態: MATE1阻害予測、毒性: システイントラッピング予測、生成モデル: REINVENTの実データ検証)について紹介し、それぞれのモデルについて言及するとともに、今後の計算-実験生物学融合領域の研究者へ問いかける、”What do you wanna do next?”。
FS01-04
侭田 秀章
(日本たばこ産業株式会社)
「分子記述子および分子画像を組み合わせた薬物動態パラメータ予測モデルの構築」
近年、経済的・時間的コストの削減および、動物実験の削減のため、創薬過程において毒性および薬物動態パラメータの予測にQSAR解析が利用されている。またこれらのパラメータの中には既存手法では予測精度が低く、予測精度向上が課題となるパラメータが存在する。そのためこれらのパラメータ予測では、高精度の予測モデル構築手法の開発が望まれている。DeepSnap-DeepLearning法は化合物を様々な角度から撮影することで、化合物の画像を取得しこの画像を用いて深層学習により予測モデルを構築する手法である。本手法により核内受容体活性やクリアランスなど毒性および薬物動態に関連する複数のパラメータ予測モデルの報告がされている。本講演では、分類および回帰モデルの構築においてDeepSnap-DeepLearing法および記述子法を組み合わせることで予測精度が向上した新たな知見について紹介する。
FS02 オミックスの原理研究会
オミックスの原理研究会
10月24日(火) 13:30〜15:00 タワーホール船堀3F 307
ゲノム解析技術の発展により種毎あるいは個人毎の全ゲノムは確実に得られるようになりました。そのことのインパクトは大きく、個々の遺伝子や変異などについて重要な情報が得られるようになりました。しかし、生物全体がどのように設計されているか?という原理は、依然分からない状態です。さらに広く考えると、生物の分子レベルから個体レベル、さらに生態系まで原理的な問題はまだ十分明らかになっていないと思います。最も基本的なビッグデータである全ゲノムが手に入る現在、私たちは「原理的な問題」が最も喫緊の課題と考えています。今回のFS も、いくつかの課題について議論しますので、さまざまな分野の方々に参加していただきたいと思います。
モデレーター
美宅 成樹(名古屋大学名誉教授)
広川 貴次(筑波大学医学医療系 生命医科学域)
荻島 創一(東北大学高等研究機構未来型医療創成センター/東北メディカル・メガバンク機構)
演者
FS02-01
美宅 成樹
(名古屋大学名誉教授)
「生命の相図を用いたSARS-CoV-2ゲノム配列の解析」
これまでゲノム配列の解析により、『生命の相図』を求めることができることを、当学会FSで詳しく議論してきました。それによれば、相図を記述するパラメータは、コドンの文字位置毎のヌクレオチド組成です。そこで今回は、ヌクレオチド組成を決める因子が環境外部因子か細胞内因子かを調べるために、ウィルス(SARS-CoV-2)ゲノムの解析を行いました。また、ウィルスは宿主のゲノム処理系に全面的に依存しているので、宿主を乗り換えた時のウィルスゲノムの解析によって、ゲノム処理系の興味深い性質を明らかにすることができました。
FS02-02
小林 徹也
(東京大学生産技術研究所)
「生体システムにおける化学情報処理過程の理解」
生体は様々な感覚系を利用して外界の情報を感知し、その情報を処理して適応的な振る舞いを実現する。また感覚系を介して他の個体と情報のコミュニケーションをする。人間の情報処理は視覚(光情報)・聴覚(音声・言語情報)が優位であるが、細胞から個体までほとんどの生体システムの基礎は、化学物質による情報感知、情報伝達、そして情報処理である。したがって生体が用いる化学言語を読み解き、どのようなプロセスで生体がその情報を処理しているかを解き明かすことが、生体システムの理解や制御・予測の基盤となる。DNA暗号の解読とセントラルドグマの解明はその金字塔であるが、生体化学情報の一部でしか無い。本発表では、生体が活用する化学情報解読にchemical informaticsやbioinformaticsそして深層学習が寄与する可能性とあわせて、化学情報を処理する生体内反応機構の理解にシステム生物学や定量生物学が果たす役割を例示し、両分野の知見・技術の統合とこれからの可能性を議論したい。
FS03 計算ADMET研究会
生成AIの研究における適用可能性と今後の研究スタイルの全面的な変化
10月24日(火) 17:10〜18:40 タワーホール船堀4F 研修室
昨年のChatGPTの公開・発表以降、生成AIが急速に注目を浴びている。生成AI 、特に大規模生成AIは従来のAIの常識を大きく覆し、研究者の専任業務となる「自律化」業務の大部分をこなし、支援する能力を持つ。さらに、研究者が苦手とするプログラミング等の能力も有しており、この点でも大規模生成AI は極めて優秀である。既に、創造的分野では写真や絵画の分野ではコンテストで優勝や賞を受けている。また、小説や詩等の創作分野でも適用がされており、将来の成果が期待される。フォーカストセッションは、今後の研究業務を大きく変える生成AI をテーマとする。
モデレーター
湯田 浩太郎(株式会社インシリコデータ)
植沢 芳広(明治薬科大学医療分子解析学研究室)
演者
FS03-01
植沢 芳広
(明治薬科大学医療分子解析学研究室)
「副作用データベースを用いた毒性発現経路の推定と大規模言語モデルの活用」
毒性研究において医薬品の副作用は重要なエンドポイントとなる。特に、リアルワールドである実臨床における副作用データは、市販前に実施される臨床試験では検討することのできない多様な患者集団に基づいた解析を可能にする。演者の主宰する研究室では、大規模なデータベースを用いて医薬品と副作用の関係を紐解くとともに、副作用発現に寄与する生化学的経路をQSAR解析手法の援用によって推定する方法論を確立してきた。また、最近急速に一般化したChatGPT等の大規模言語モデルを積極的に投入することによって、副作用データベース解析の簡略化を実施してきた。本講演では、副作用データベースを用いて定義した毒性誘発物質の化学構造から、当該毒性に関連する核内受容体などの生化学的ハブの推定に至る解析法を解説するとともに、副作用データベース解析におけるChatGPTの利用法について紹介したい。
FS03-02
結城 伸哉
(株式会社Elix)
「生成モデルを中心としたElixにおけるAI創薬」
自然言語から画像まで近年生成系AIが大きな注目を集めており、創薬においても生成モデルが注目を集め続けている。株式会社ElixはAI創薬を専門とする企業であり、コア技術としては生成モデルを日常的に活用している。本講演では、Elixにおける事例も交えつつ、生成モデルを中心に具体的な活用法、現在地や今後の発展などについて議論する。
FS03-03
生島 高裕
(株式会社 数理先端技術研究所)
「LLM (大規模言語モデル)に限界はあるのか?AGI (汎用人工知能) の出現はどのように?未来を探る」
LLMのパラメータ数の拡大による性能向上は多くの課題を提出している。単にパラメータ数を増やすだけで人間の知能を越えるのか、消費電力はいくらまで許容可能か、LLMの生成物に対する根拠とその導出プロセスを説明できるか、推論がどこまでできるかなど。そして、LLM以外のアプローチとそのハイブリッド型からのAGIのあるべき姿、フィールズ賞クラスの創造性、その時、人間の創造性はどのようにあるべきかなどがある。これらについて情報提供する。
FS03-04
湯田 浩太郎
(株式会社インシリコデータ)
「自律型(オートノマス)研究への生成AIの適用性」
昨年、湯田は研究のスタイルとして今後は「自律型(オートノマス)研究」が主体になると提案した。昨年は概念的な提案で、実際に「自律型」研究を実施するための道具や武器は存在しなかった。昨年時点でのAI 技術では、知的/創造的内容が主体となる「自律型」研究の実施は困難、不可能であった。しかし、昨年11月に発表されたChatGPTの出現により、知的/創造的業務の実施や支援が可能なAI時代に突入した。今回はChatGPTに代表される大規模生成AIや、一般的な生成AIの自律型研究への適用可能性について発表する。
FS04 AIとXRの融合時代における化合物設計とデータ表示の革新
AIとXRの融合時代における化合物設計とデータ表示の革新
10月24日(火) 17:10〜18:40 タワーホール船堀3F 307
近年、医薬品開発分野において、AIの進化が活性・副作用予測やDenovo設計などの重要な課題で劇的な進展を遂げています。この進展により、分子設計の専門家はAIの力を借りて、次に合成するべき化合物の指針を明確に示し、それを合成するメディシナルケミストを納得させる役割を果たすことが求められています。さらに、近年ではブラックボックス化を解消するための新たなアプローチとして、説明可能なAI(Explainable AI: XAI)技術への関心が高まっています。一方、XR技術(仮想現実/拡張現実/複合現実の総称)もまた注目すべき存在です。これは医薬品候補の三次元構造を直感的に把握するために有益な手段であり、さまざまなバックグラウンドを持つチームメンバー間での有意義な議論を活発化させることが期待されます。このセッションでは、「AIとXRの時代」を牽引する新進気鋭の研究者に焦点を当て、彼らが直面する困難な課題への革新的なアプローチや最新の研究成果について紹介します。医薬品設計分野におけるこれらのテクノロジーの統合がもたらす可能性について洞察を得る機会となることでしょう。このセッションでは、当該分野においてAI及びXRをリードする研究者に焦点を当て、彼らの挑戦的な課題に対する革新的なアプローチや最新の研究内容についてご講演頂きます。医薬品設計分野におけるこれらのテクノロジーの統合がもたらす可能性について議論します。
モデレーター
池田 和由(慶應義塾大学・理化学研究所)
江崎 剛史(滋賀大学)
清水 祐吾(理化学研究所)
(CBI若手の会有志)
演者
FS04-01
渡邉 博文
(株式会社ウィズメーティス)
「創薬現場で役立つAI、XAI」
創薬現場において多くのAI導入の試みが行われているがAIは、ブラックボックス化しやすく現場でメディシナルケミストを説得するには、不十分なことも多くあるだろう。そこで、このような問題を解決するためにCBI若手の会の有志で、説明可能なAI(XAI)に関する共同研究を行っている。Random Forestのような従来からある機械学習手法や、より新しいグラフ畳み込みニューラルネットワークを用いて、SHAP値、IG値などXAI手法で計算される量を分子構造上に示すなどし、現場でのAI予測の結果のよりより示した方について検討を行っている。メディシナルケミストからの「AI、XAIが示してる傾向は、既知・自明なこと」という反応に対する対応の指針を示す。
FS04-02
石田 祥一
(横浜市立大学)
「複合現実空間で体験する化学反応ネットワークの対話操作」
複合現実(MR)技術の登場により、現実空間とバーチャル空間が相互に作用する新たな世界が拓かれた。これはあらゆる場所・空間でもバーチャルなオブジェクトを現実の一部として扱えるようにし、従来の拡張現実(AR)や仮想現実(VR)を超えて、より自然で直感的な没入体験を可能にした。本講演ではMR技術により可能になったことを、化学反応ネットワークの対話操作を題材に紹介していく。
FS04-03
Simon BENNIE
(Nanome, Inc.)
"VR latest technologies in Theoretical and Computational Chemistry"
The successful creation and optimization of nanoscale biomolecules, including proteins and small-molecule drugs, is often contingent on an in-depth understanding of their three-dimensional structures. VR/MR platforms offer scientists a uniquely powerful and cooperative tool to explore and understand structures and to obtain a distinct perspective of the nanoscale world. This type of platform paves the way for faster and more effective concept development, better communication of scientific principles, and a range of tools for improving early-stage Hit all the way to structure optimization.
Immersive software in science has now developed to the point that it can easily integrate with industry workflows through flexible Python APIs, enabling easier interfacing with widely used modelling methods without scientists having to learn new programming languages or how to develop within game engines. We will highlight the key facets of current and upcoming immersive hardware and how state-of-the-art spatial computing approaches are being used to accelerate drug discovery, both through improved structural understanding and by creating a new paradigm for interacting with standard biochemical research algorithms. We will discuss the collaborative use of algorithms and the unique potential of accelerating their performance through the power of natural human 3D reasoning and direct molecular control.
FS05 第33回FMO研究会
核酸創薬に向けた構造・機能解析と計算によるアプローチ
10月25日(水) 13:30〜15:00 タワーホール船堀4F 研修室
近年、創薬モダリティとして、核酸への注目が高まっている。核酸はタンパク質と比較して構造が揺らぎやすく、構造ベース創薬はいまだ開発途中である。本セッションでは、DNA/RNAの構造や機能、及び相互作用解析を推進している先生を演者に迎えて、実験および計算科学の現状を共有し、今後の核酸創薬に向けた設計手法開発の方針を議論したい。
モデレーター
福澤 薫(大阪大学)
本間 光貴(理化学研究所)
演者
FS05-01
近藤 次郎
(上智大学理工学部物質生命理工学科)
「創薬標的としてのRNA立体構造モチーフ」
タンパク質に代わる創薬標的としてRNAが注目されている。一本鎖として転写されたmRNAやノンコーディングRNAは部分的に折れたたまれて、A-U、G-C以外の非相補的な塩基対を複数含む内部ループ、ヘアピンループなどの構造をとる。ドラッグデザインの戦略を立てるためには、創薬標的となるこれらの構造モチーフの特徴を捉える必要がある。本講演では、RNAの立体構造構築の基礎と、X線結晶解析による動的な立体構造の観察技術について紹介し、立体構造予測に向けた展望も示したい。
FS05-02
建石 寿枝
(甲南大学 先端生命工学研究所)
「非二重らせん核酸による疾患関連遺伝子の発現制御」
核酸の標準的な構造は、二重らせん構造であるが、同一の塩基配列でも核酸は、三重らせん、四重らせんのような非二重らせん構造も形成する。非二重らせん構造形成は、周辺の環境変化(共存質や塩濃度、pHの変化など)によって誘起され、非二重らせん構造が形成されると遺伝子発現に関わる生体反応が抑制される。興味深いことに、非二重らせん構造を形成できる配列は、がんや神経変性疾患に関わる遺伝子上に多く含まれる。本講演では、疾患の発症や進行に関わる非二重らせん構造に関する研究成果を紹介し、創薬の標的としての非二重らせん構造の有効性について議論する。
FS05-03
福澤 薫
(大阪大学大学院薬学研究科)
「FMO法を用いた核酸の相互作用解析」
フラグメント分子軌道(FMO)法は、分子の立体構造に基づいて電子状態を計算し、分子内・分子間の定量的な相互作用エネルギーを取り出すことができるため、構造ベース創薬における相互作用の理解や分子設計のアイデアに繋がっている。量子化学計算であるために、エネルギーは力場に依存せず、タンパク質―低分子系ばかりでなく、核酸などの創薬モダリティにおいても、幅広く適用できる。ここでは、核酸とその複合体のFMO計算による相互作用解析の現状と実験との連携について、最新の進捗を紹介する。
FS06 先端的計測技術(1)
先端的計測技術(1)
10月25日(水) 13:30〜15:00 タワーホール船堀4F 407
近年、抗体医薬品、核酸医薬品などのバイオ医薬品の開発が盛んである。生体高分子をベースにしたこれらの医薬品はより複雑な分子作用機序や分子動態を示すので、開発においては、その計測や評価モデル系構築が鍵となる。本フォーカストセッションでは、気鋭の研究者に御発表いただく。前半は高感度・高精度な生体計測に関して、後半は細胞の操作に関して、広く御討論いただきたい。前半2題は、高感度・高精度な検出について、ご発表いただく。まずはAIや光学観察を基盤とした、(バイオマーカー標識が不要な)、データ駆動型のサイトメトリー(細胞や粒子の分画)に関して、太田禎生先生(東京大学)からご発表いただく。続いて、武井洋大先生(カリフォルニア工科大学)より、ゲノム、トランスクリプトーム、核内構造体の三次元情報の1細胞解析(マルチオミクス解析)に関して世界のトップを走る最先端のご研究をご紹介いただく。後半の4題は、新規の薬物動態・安全性の評価系として生体計測と連携が期待される臓器モデルを活用した生体計測について、ご発表いただく。はじめに小島伸彦先生(横浜市立大学)より、スフェロイド作製技術と光学観察に関してご発表いただく。黒澤俊樹先生(帝京大学)より、ヒトiPS細胞から作製したヒトBBBモデルの有用性、そしてBBB-MPSの開発に関してご発表をいただく。続いて、横川隆司先生(京都大学)より、臓器細胞と血管網の界面を2次元的あるいは、3次元的に形成する方法について腎近位尿細管や腫瘍微小環境、あるいは脳オルガノイドを例に御紹介いただく。最後に、山本佑樹先生(HiLung株式会社)より、ヒトiPS細胞技術を用いて作製された、生体とほぼ同等のヒト呼吸器上皮細胞に関する話題を御紹介いただく。前半でご紹介いただく高感度・高精度な生体計測技術と、後半の臓器モデルを活用した生体計測との連携と、新規の薬物評価系への展開に関して広く御討論いただきたい。
【このセッションは前半・後半に分かれており、17:10から同室で行われるFS09に続きます】
モデレーター
石田 誠一(国立医薬品食衛生研究所 / 崇城大学生物生命学部)
多田隈 尚史(上海科技大学)
藤田 聡史(産業技術総合研究所 生命工学領域 先端フォトニクス・バイオセンシング)
演者
FS06-01
太田 禎生
(東京大学 先端科学技術研究センター)
「Learning Cytometryの開拓」
サイトメトリー技術を使う時、私たちはバイオマーカーを使って細胞を標識し、マーカー強度やその他代表値から、ソートする細胞を定義します。しかし、目的細胞を定義する良いマーカーがなかったら?どの細胞を標識すべきか、わからないとしたら?私は、人の仮説に基づいた考え方を逆転し、10年ほど前にデータ駆動型のLearning Cytometry技術開発を始めました。この講演では、実用化したAIが駆動する画像情報識別型ゴーストサイトメトリー(GC)、マルチモーダルサイトメトリー手法や、高感度・高速ナノ粒子サイトメトリーも時間の許す限りで紹介できたらと思っています。
FS06-02
武井 洋大
(カリフォルニア工科大 バイオエンジニアリング研究科)
「単一細胞核の高解像度空間マルチオミクス解析」
ゲノム、トランスクリプトーム、核内構造体の三次元情報を一細胞から網羅的に取得することは、細胞核内での遺伝子発現制御を解読する上で重要である。本発表では、同一細胞から100,049染色体座、17,856遺伝子の新生トランスクリプトーム、及び様々な核内構造体の同時計測を可能にする高解像度空間マルチオミクスイメージング技術の開発と、複雑な組織における一細胞レベルの詳細解析について紹介する。
FS06-03
小島 伸彦
(横浜市立大学 生命ナノシステム科学研究科)
「スフェロイドの光学観察による創薬の可能性」
スフェロイドは細胞を数千個程度凝集させて作製したミニ組織である。例えば肝細胞は平面培養よりもスフェロイド培養でより高い代謝能力を示す。このような高い生理学性だけでなく、スフェロイドはその形状など光学的に検出可能な特徴によっても創薬プロセスを支援できる可能性がある。本発表では、メチルセルロース法によるスフェロイド作製技術が光学観察にもたらす重要性を示す。また、近赤外線による画像解析を用いた細胞毒性の評価についても紹介する。
FS07 分子ロボティクス研究会
「人工生体分子で脂質膜間通信を目指す」
10月25日(水) 13:30〜15:00 タワーホール船堀3F 307
分子ロボティクス研究会では、人工的な生体分子システムを合理的な設計に基づいて作製することを目標としている。そのようなシステムの一例として、脂質膜で覆われたカプセル型のスマートドラッグが想定される。カプセルの外部環境から情報を受け取り、状況に応じて薬剤分子を内部から外部へ放出するシステムである。しかしながら脂質膜はカプセルの内外を隔てるバリアとして機能し、分子の輸送や情報のやり取りを遮断するため、そのようなシステムの実装は一般に困難である。そこで分子ロボティクス研究会では、DNAやペプチド、タンパク質などを材料に作製される人工の生体分子を用いて脂質膜間で通信を行う方法論に注目している。本セッションでは、脂質膜間で分子の輸送や情報のやり取りを行うシステムの分子シミュレーションや実験研究について情報共有を行い、分子ロボティクスの展開に関して広く議論を行いたい。
モデレーター
川又 生吹(東北大学)
佐藤 佑介(九州工業大学)
小宮 健(JAMSTEC)
多田隈 尚史(上海科技大学)
豊田 太郎(東京大学)
演者
FS07-01
川又 生吹
(東北大学)
「分子ロボティクス研究会とセッションの紹介」
2023年にCBI学会で発足した分子ロボティクス研究会の紹介を行うとともに、本セッションの説明を行う。
FS07-02
馬渕 拓哉
(東北大学)
「人工DNAチャネル内部のイオン輸送に関する分子シミュレーション」
DNAナノテクノロジーの発展に伴い様々なDNAを基盤とした人工ナノポアが開発されており、設計するポア径によって輸送されるターゲット分子が異なる。本研究ではイオン輸送 をターゲットとした比較的小さなポア径(<~2nm)の人工 DNAチャネルに着目し、その内部のナノスケールのイオン輸送現象を分子論的に明らかにする。
FS07-03
杉田 昌岳
(東京工業大学)
「環状ペプチドの膜透過メカニズムを明らかにするための分子動力学シミュレーションプロトコルの開発と応用」
近年、高活性な薬剤候補分子を容易に探索することが可能なモダリティである環状ペプチドを細胞内へ送り込むために、その膜透過性を高める技術開発が活発に進められている。その一環として、環状ペプチドの膜透過メカニズムを明らかにするための分子シミュレーション技術の開発が求められている。我々はこれまでに2次元レプリカ交換法に基づく分子動力学シミュレーションプロトコルを開発し、環状ペプチドの膜透過性の予測へ応用してきた。その結果、正確な予測を行うためには、メチル化されたペプチド結合やプロリンのN末端を含むペプチド結合のcis/trans異性化のサンプリングや膜を構成する脂質分子の調整が必要なことが明らかになった。
FS07-04
川野 竜司
(東京農工大学)
「ナノポアを形成する人工膜輸送体の構築」
生体ナノポアは脂質二分子膜に数ナノメートルの孔をあけるタンパク質である。最近ナノポアを利用した一分子DNAシーケンサが実用化され、生体内分子の天然での機能とは異なる人工的な応用が注目され始めている。本講演では、ナノポアを人工的に設計、構築し、膜の内外の物質輸送の制御可能な人工膜輸送システムについて紹介したい。
FS08 創薬におけるプライバシー保護連合学習の最新動向
創薬におけるプライバシー保護連合学習の最新動向
10月25日(水) 17:10〜18:40 タワーホール船堀4F 研修室
機械学習・AIモデルの性能は、学習に使用されるデータの質と量によって決まります。そのため、製薬業界において学習データの統合によるコラボレーションを模索する動きが増えています。しかしながら、従来の機械学習手法では学習データを1つのサーバーにデータ集約する必要があったため、機密性の高い化合物構造や活性値情報を共有することが困難でした。その課題を解決すべく、プライバシー保護連合学習の創薬への応用研究が進められています。プライバシー保護連合学習とは、学習データを1つのサーバーに集約することなく分散した状態で機械学習を行う手法で、プライバシーに関わるデータや機密性の高いデータなど外部と共有できないデータを扱う際に有益な手法です。本セッションでは、創薬におけるプライバシー保護連合学習の最新の研究成果や成功事例について、国内外のコンソーシアムで活躍する先生方をお招きし、プライバシー保護連合学習の利点や今後の展望についてご講演頂きます。
モデレーター
藤 秀義(イクトス株式会社)
演者
FS08-01
本間 光貴
(理研)
「AMED DAIIAの概要と情報セキュリティ技術への期待」
AMED DAIIAにおける公共データと企業データの両方に基づく創薬AIプラットフォームの構築の進捗の概要を紹介し、今後の運用に向けた情報セキュリティ技術への期待を話します。
FS08-02
Jun JinChoong
(株式会社Elix)
「kMolによる効率的かつスケーラブルな活性予測のフレームワーク」
In recent years, the accelerated design and discovery of pharmaceutical compounds through computational methods have driven the need for fast, scalable and secure frameworks to predict ligand-protein interactions. Such predictions are pivotal in identifying potential drug candidates and optimizing their binding affinity without compromising trade secrets within the pharmaceutical industry. However, with the ever-expanding size of chemical and biological databases, conventional computational approaches face challenges in handling the complexity of these tasks. To address this, we introduce a fast and scalable framework with federated learning capabilities for predicting ligand-protein activities. To the best of our knowledge, this is the only framework capable of performing federated learning for drug discovery end-to-end. This framework is developed in collaboration with researchers from Kyoto University. Our approach capitalizes on state-of-the-art machine learning algorithms, advanced feature engineering, and efficient data processing techniques to allow for a fast and scalable prediction end-to-end. Utilizing the power of parallel processing and distributed computing, our framework is capable of handling large datasets, resulting in significantly reduced computation time while maintaining high prediction accuracy. Computation can be performed on CPU or GPU depending on the nature of the task. Furthermore, with federated learning, one can utilize the framework in conjunction with various other collaborators without the need of exposing private data to others. Central to our framework is the customizability of the framework itself. The framework is designed with flexibility in mind, allowing users to customize configuration of models and build a pipeline that is most suitable for the task at hand. Moreover, the framework is capable of exploiting structural information (graph data), structural features, molecular descriptors and protein features. This multi-modal data representation enables a comprehensive analysis of the intricate relationships between ligands and proteins, capturing both global and local interactions that influence binding affinities. By harnessing deep learning architectures such as graph neural networks and convolutional neural networks, our model effectively learns complex patterns and dependencies from the data, thereby enhancing predictive performance. For further performance gain, one can also perform fine-tuning within the framework itself. For analysis purposes, visuals can be generated to have better understanding of the molecular space.
[1] Elix. https://github.com/elix-tech/kmol, 2023.
[2] Justin Gilmer, Samuel S. Schoenholz, Patrick F. Riley, Oriol Vinyals, and George E. Dahl. Neural Message Passing for Quantum Chemistry. In International Conference on Machine Learning, pages 1263–1272, July 2017.
[3] Thomas N. Kipf and Max Welling. Semi-supervised Classification with Graph Convolutional Networks. In Proceedings on the 5th International Conference on Learning Representations, ICLR ’17, 2017.
[4] Ryosuke Kojima, Shoichi Ishida, Masateru Ohta, Hiroaki Iwata, Teruki Honma, and Yasushi Okuno. kGCN: A graph-based deep learning framework for chemical structures. Journal of Cheminformatics, 12(1):32, May 2020.
[5] Qiang Yang, Yang Liu, Tianjian Chen, and Yongxin Tong. Federated Machine Learning: Concept and Applications. ACM Transactions on Intelligent Systems and Technology, 10(2):12:1–12:19, January 2019.
[6] Bolei Zhou, Aditya Khosla, Agata Lapedriza, Aude Oliva, and Antonio Torralba. Learning Deep Features for Discriminative Localization. In 2016 IEEE Conference on Computer Vision and Pattern Recognition (CVPR), pages 2921–2929. IEEE Computer Society, June 2016.
FS08-03
Thierry Gilles HANSER
(Lhasa Limited)
"FLuID, Federated Learning using Information Distillation"
Federated Learning (FL) allows to share knowledge across multiple organisations whilst mitigating the risk of leaking private information between partners. In recent years Federated Learning has been adopted in Molecular Discovery [1] to develop a new generation of improved predictive models. In this presentation we will describe a new Federated Learning paradigm where knowledge is transferred using data annotation and Knowledge Distillation [2]. This new data-driven paradigm called FLuID (Federated Learning using Information Distillation) alleviates many of the limitations of the current popular model-driven approach whilst capturing knowledge in a robust and versatile format. We will demonstrate that knowledge can be shared whilst preserving the privacy of the underlying data using a simple, intuitive, and lightweight method. We will present the application of the method to improve the prediction of secondary pharmacology, discuss recent advances in this approach and describe a visual research platform to explore the potential of the method in the industrial context.
[1] Hanser T. Federated learning for molecular discovery. Current Opinion in Structural Biology. 2023 Apr 1;79:102545.
[2] Hinton G, Vinyals O, Dean J. Distilling the knowledge in a neural network. arXiv preprint arXiv:1503.02531. 2015 Mar 9.
FS08-04
Martijn OLDENHOF
(KU Leuven)
"Industry-Scale Orchestrated Federated Learning for Drug Discovery"
To apply federated learning to drug discovery we developed a novel platform in the context of European Innovative Medicines Initiative (IMI) project MELLODDY (grant n°831472), which was comprised of 10 pharmaceutical companies, academic research labs, large industrial companies and startups. The MELLODDY platform was the first industry-scale platform to enable the creation of a global federated model for drug discovery without sharing the confidential data sets of the individual partners. The federated model was trained on the platform by aggregating the gradients of all contributing partners in a cryptographic, secure way following each training iteration. The platform was deployed on an Amazon Web Services (AWS) multi-account architecture running Kubernetes clusters in private subnets. Organisationally, the roles of the different partners were codified as different rights and permissions on the platform and administrated in a decentralized way. The MELLODDY platform generated new scientific discoveries which will be shortly highlighted.
FS09 先端的計測技術(2)
先端的計測技術(2)
10月25日(水) 17:10〜18:40 タワーホール船堀4F 407
【このセッションは前半・後半に分かれており、13:30から同室で行われるFS06の後、休憩(15;00-17:10)をはさんだ後に引き続き行われます】
近年、抗体医薬品、核酸医薬品などのバイオ医薬品の開発が盛んである。生体高分子をベースにしたこれらの医薬品はより複雑な分子作用機序や分子動態を示すので、開発においては、その計測や評価モデル系構築が鍵となる。本フォーカストセッションでは、気鋭の研究者に御発表いただく。前半は高感度・高精度な生体計測に関して、後半は細胞の操作に関して、広く御討論いただきたい。前半2題は、高感度・高精度な検出について、ご発表いただく。まずはAIや光学観察を基盤とした、(バイオマーカー標識が不要な)、データ駆動型のサイトメトリー(細胞や粒子の分画)に関して、太田禎生先生(東京大学)からご発表いただく。続いて、武井洋大先生(カリフォルニア工科大学)より、ゲノム、トランスクリプトーム、核内構造体の三次元情報の1細胞解析(マルチオミクス解析)に関して世界のトップを走る最先端のご研究をご紹介いただく。後半の4題は、新規の薬物動態・安全性の評価系として生体計測と連携が期待される臓器モデルを活用した生体計測について、ご発表いただく。はじめに小島伸彦先生(横浜市立大学)より、スフェロイド作製技術と光学観察に関してご発表いただく。黒澤俊樹先生(帝京大学)より、ヒトiPS細胞から作製したヒトBBBモデルの有用性、そしてBBB-MPSの開発に関してご発表をいただく。続いて、横川隆司先生(京都大学)より、臓器細胞と血管網の界面を2次元的あるいは、3次元的に形成する方法について腎近位尿細管や腫瘍微小環境、あるいは脳オルガノイドを例に御紹介いただく。最後に、山本佑樹先生(HiLung株式会社)より、ヒトiPS細胞技術を用いて作製された、生体とほぼ同等のヒト呼吸器上皮細胞に関する話題を御紹介いただく。前半でご紹介いただく高感度・高精度な生体計測技術と、後半の臓器モデルを活用した生体計測との連携と、新規の薬物評価系への展開に関して広く御討論いただきたい。
モデレーター
石田 誠一(国立医薬品食衛生研究所 / 崇城大学生物生命学部)
多田隈 尚史(上海科技大学)
藤田 聡史(産業技術総合研究所 生命工学領域 先端フォトニクス・バイオセンシング)
演者
FS09-01
黒澤 俊樹
(帝京大学 薬学部 薬物動態学研究室)
「ヒトiPS細胞由来血液脳関門モデルを用いた輸送解析およびMPS構築への応用」
血液脳関門 (blood-brain barrier; BBB) は、細胞間の密着結合と多様な輸送体により血液-脳間の物質輸送を厳密に制御している。中枢疾患治療薬の創剤にとってヒト脳への移行性予測が重要であるが、既存の動物及び細胞評価系では種差や密着結合性の問題が指摘されている。本発表では、ヒトiPS細胞から作製したヒトBBBモデルの有用性、そしてBBB-MPSの開発を目指した我々の取り組みについて研究成果を中心に報告する。
FS09-02
横川 隆司
(京都大学大学院工学研究科マイクロエンジニアリング専攻)
「腫瘍微小環境および器官形成への応用に向けた血管網を有するMicrophysiological systems (MPS)」
我々は、臓器細胞と血管網の界面を形成する方法として、多孔質膜上で臓器細胞と血管内皮細胞を共培養する2次元的方法(2D-MPS)と、血管内皮細胞の自己組織可能を利用する3次元的方法(3D-MPS)を用いたアッセイ系を開発してきた。2D-MPSとしてオルガノイド由来細胞を用いた腎近位尿細管モデル、3D-MPSとして腫瘍スフェロイドと血管網を吻合した腫瘍微小環境モデルや脳オルガノイドモデルを紹介する。
FS09-03
山本 佑樹
(HiLung株式会社)
「肺オルガノイドの応用と未来」
近年の世界的潮流もあり、創薬におけるヒト外挿性の高い細胞モデルへの関心が高まっている。呼吸器疾患領域においても、動物モデルと実際のヒト病態での乖離があり、特に複雑な肺三次元構造を模倣したオルガノイドの創薬応用への関心が高い。HiLung株式会社では、iPS細胞技術を活用した呼吸器オルガノイドを用いた創薬応用を推進してきた。その活動を紹介するとともに、「肺オルガノイド創薬」の展望についても触れていきたい。
FS10 生命の起源:翻訳の起源
生命の起源:翻訳の起源
10月25日(水) 17:10〜18:40 タワーホール船堀4F 406
毎年CBI大会のフォーカストセッションで開催させていただいている「生命の起源」セッションも今回で6回目となり、今回のテーマは「翻訳の起源」である。生命の起源を考える上でいつも問題となるのが、核酸が先かタンパク質が先かという点である。両者をつなぐ翻訳系の起源を考察することは、その問いに対する直截的な洞察を与える。問題点を整理するイントロに続いて、分子シミュレーションに基づく、翻訳機能と創薬応用に関する2件の話題提供をいただき、その後、自由な討議の場を設けたい。
モデレーター
田中 成典(神戸大学)
演者
FS10-01
田中 成典
(神戸大学)
「はじめに」
翻訳システムの起源に関して、現在の知見を主に構造生物学、バイオインフォマティクス、分子シミュレーションの立場から整理し、生命の起源と関係づけるにあたっての論点を明確にする。
FS10-02
森 義治
(神戸大学)
「翻訳開始過程における開始tRNA認識の分子機構:tRNAとリボソームタンパク質の進化を探る」
翻訳が開始されるためには開始tRNAがリボソームに適切に結合する必要がある。本発表においては、分子シミュレーションにより明らかにされた開始tRNAのリボソームへの結合機構を報告する。リボソームタンパク質がその結合機構において重要な役割を担っており、そこから示唆されるtRNAとリボソームタンパク質の進化についても考察する。
FS10-03
半田 佑磨
(星薬科大学)
「翻訳開始因子eIF4AとRNAの相互作用解析」
翻訳開始因子であるeIF4Aは、43Sリボソーム複合体をmRNA上にリクルートし、自身はATP依存的にRNAから乖離することで、スキャニングを開始する。本発表では、RNA配列特異的にこの反応を阻害する天然化合物Rocaglamide Aを含む三者複合体の相互作用をin silicoによって明らかにした結果について報告する。
FS11 医療データAI解析実践フォーラム
医療データAI解析実践フォーラム
10月25日(水) 17:10〜18:40 タワーホール船堀3F 307
AI関連技術は日進月歩で進化しており、その医療データ解析への応用は、研究デザイン、データ処理、統計解析、機械学習の適用などを含め、パラダイムシフトが必要である。本フォーラムでは、医療データのAI解析の中でも精密医療の実現に向けた最新技術とその応用、疾患の層別化や早期予測に基づく行動変容などのために、最先端のAI解析に実際に取り組んでいる研究者が研究発表を行い、最新の技術情報共有を行う。医療データAI解析に実際に取り組んでいる研究者、これから始めようという研究者にぜひご参加いただき、医療データのAI解析を実践している研究者の交流の場としてオープンに議論したい。
モデレーター
水野 聖士(東北大学)
小島 諒介(京都大学)
荻島 創一(東北大学)
演者
FS11-01
小島 諒介
(京都大学)
「大規模グラフニューラルネットワークに基づく多様な医療関連データ解析」
近年の人工知能(AI)ブームによって、医療関連の様々なデータに対するAI・機械学習技術の適用が急速に進みつつある。特に、医療関連のタスクでは、単一データだけでなく、複数のモダリティのデータを取り扱う必要があり、それらの複数モダリティを統合した取り扱いが重要である。本講演では、特に大規模なグラフデータを扱う場合を中心として、複数モダリティのデータの取り扱う方法に関して、グラフニューラルネットワークを用いた実例を挙げつつ紹介する。
FS11-02
徳山 健斗
(中外製薬株式会社)
「中外製薬が進める創薬研究におけるAI活用実践」
中外製薬は,医療用医薬品に特化し,がん領域・バイオ医薬品に強みを持つ研究開発型の製薬企業です.「個別化医療」の国内パイオニアとして,ゲノムデータ,リアルワールドデータ(RWD),デジタルバイオマーカー(dBM)等のデータを解析することで,一人ひとりに最適な治療の提供を目指しています.本セッションでは,当社のデータサイエンティストより、創薬研究における機械学習やインフォマティクス技術の活用事例について紹介します.
FS11-03
水野 聖士
(東北大学)
「低出生体重の層別化に基づく環境・遺伝要因による予測モデルの開発」
行動変容のための疾患の予測モデルはこれまでに多く研究されてきたが、高血圧など多くの多因子疾患で重要と考えられる層別化に基づく、遺伝要因と環境要因の両方を考慮した疾患予測モデルの構築の報告はまだ少ない。本研究では、低出生体重を例に大規模ゲノムコホート調査である三世代コホート調査で収集された網羅的な生活習慣情報および遺伝情報を使用し、早産群と正期産群での層別化に基づく疾患予測モデルの構築およびその解釈により得られた知見について報告するとともに、行動変容へのアプローチについての展望にも言及する。
FS11-04
中村 和貴
(協和発酵バイオ株式会社)
「個人レベルでの効果的な治療・疾患予防のためのAI技術の開発」
個別化医療では、個人ごとの特性を考慮した診断と治療により、高い治療効果や先制的な疾患予防の実現が期待される。機械学習技術の進歩により、複雑な個人の健康情報を処理することで、高性能な診断支援や疾患予測が実現されてきた.しかしながら、具体的に「何を」「どのように」改善することが効果的であるかに関する、データ駆動型の手法は確立されていない.本演題では、疾患・健康指標の予測に基づき個人レベルでの具体的な治療・予防法を提案するための、介入目標の探索・可視化技術、および目標点までの改善方法の提案技術について紹介したい.
FS12 幹細胞とAIを用いた毒性予測の新アプローチ法の紹介
幹細胞とAIを用いた毒性予測の新アプローチ法の紹介
10月26日(木) 13:30〜15:00 タワーホール船堀4F 407
近年、幹細胞研究と人工知能 (AI)の分野は、さまざまな科学的および医療的応用において大きな期待を示している。これら2つの技術が融合する分野の 1 つは、さまざまな物質の毒性の予測である。この新しいアプローチ法(NAMs)は、幹細胞のユニークな特性と AIの計算能力を組み合わせて、化学物質の潜在的な毒性影響を評価するためのより正確かつ効率的な方法が特徴である。本セッションでは、私たちが開発したNAMsを詳しく紹介します。
モデレーター
曽根 秀子(横浜薬科大学)
演者
FS12-01
藤渕 航
(日本新薬株式会社/東京大学大学院医学系研究科)
「ヒト幹細胞多臓器毒性予測システム「StemPanTox」の特徴とその価値」
医薬品等の毒性検査ではAmes試験、hERG試験、細胞株・オルガノイド試験、動物試験、ヒト臨床試験など段階的に様々な手法が用いられるが、最後のヒト試験で毒性が出ると開発がストップしてしまう。予め毒性が出そうな臓器が予測できれば、何らかの手段を講じることもできるかも知れない。StemPanToxはヒト幹細胞を用いて多臓器毒性のハザードを高性能に予測できるシステムであり、その特徴や利用価値について概説する。
FS12-02
高瀬 俊郎
(日本アイ・ビー・エム株式会社)
「再利用可能な実行パイプライン構築版:ステムパントックスαの紹介」
幹細胞による毒性予測システムStemPanToxの実行には機械学習モデルの学習・検証、学習済みモデルを用いた予測実行などの多様なプロセスが存在する。各プロセスにおいて将来の新たなデータに対しても再利用可能な実行パイプライン:ステムパントックスαを構築した。また毒性予測分類器についてはPython言語のLightGBMライブラリによる再実装を行った。本セッションではその内容について紹介する。
FS12-03
加藤 毅
(群馬大学)
「ステムパントックスに用いる化学物質毒性予測アルゴリズムの検討」
StemPanToxは,ヒト幹細胞における発現量の変化を用いて多臓器毒性予測を行うアルゴリズムとして開発された。このアプローチは,ヒト幹細胞の発現量を測定するには多くの費用と時間がかかるため,学習データを大規模化しにくい.そこで本研究では,学習データを仮想的に増加させる方法を試みた。本発表では,データの水増しにおいて生じるアルゴリズム上の問題を明らかにし,その問題を解決する理論を紹介する。