学会企画

受賞記念講演

10月23日(月) 17:30〜19:30 タワーホール船堀2F 瑞雲・平安

CBI学会では、化学と生物学の境界領域における計算機と情報学の応用(Chemo Bio Informatics)において著しい業績をあげ、 Chem Bioinformatics の発展に貢献した方に対してCBI学会賞、CBI学会若手奨励賞を授与している。

若手奨励賞

Chemo Bio Informatics の領域において独創的で優れた研究を成し遂げ、将来の活躍が期待される 若手のCBI 学会員もしくは学生会員に対して授与されるCBI 学会若手奨励賞を、2023年度は加藤 幸一郎先生(九州大学大学院工学研究院)、大上 雅史先生(東京工業大学情報理工学院)が受賞されたので、ご講演いただく。

01

加藤 幸一郎先生
(九州大学大学院工学研究院)

「FMO データを用いた機械学習モデルの開発」

生体関連分子の立体構造研究や、薬物分子設計における相互作用研究では、タンパク質などを計算対象とした分子シミュレーションの利用が一般的となっている。これらのシミュレーションにおいて分子のエネルギーや各原子に働く力は、物理化学的描像に基づくポテンシャル関数で表現され、パラメータセットと合わせて古典分子力場と呼ばれる。分子シミュレーションの精度は使用する古典分子力場によって決定されるため、古典分子力場の更なる精度向上が期待されている。しかしながら、タンパク質の生体高分子と医薬低分子化合物等との相互作用は非常に複雑であり、例えばハロゲン結合等の相互作用は単純なポテンシャル関数形では表現することは困難である。精度向上の意味では、計算対象となる分子系のダイナミクスを全て量子化学(QM)的に計算するという力業も考えられるが、たとえ「富岳」をもってしても計算コストの面で非現実的である。創薬をはじめとした生体関連分子研究にかかる時間・コストの更なる削減、コロナウィルスの様なパンデミックに対応するための迅速な研究開発など、更なる分子シミュレーション活用が必須になっていくことは明白であるものの、そのためには古典分子力場の計算コストで量子化学(QM)レベルの計算精度の実現に向けた従来力場の枠組みに囚われない大転換、すなわちゲームチェンジが不可欠である。このゲームチェンジの鍵になると我々が注目し研究開発に着手しているのが機械学習力場である。これは QM計算で作成したデータを Artificial Neural Network (ANN) により学習することで、低コストで高精度な力場を構築するというコンセプトの手法である。類似手法も合わせて無機結晶材料や低分子化合物へと適用範囲の広がりを見せているが、巨大な生体関連分子で機械学習力場を構築した事例は未だ報告されていない。これは高品質なタンパク系の学習データセットの構築が困難であることが一因であると考えられる。
我々は、この高品質なタンパク系の学習データセットの構築をフラグメント分子軌道法(FMO 法)の活用により克服し、機械学習力場の構築に向けた検討を進めている。FMO 法により生み出される唯一無二のデータを用いた機械学習モデルの構築は、力場開発に留まらず非常に広範なポテンシャルを秘めていると我々は考えている。本講演では、FMO データを用いた機械学習による原子電荷予測や相互作用予測、さらには機械学習力場構築に向けた状況を紹介する。

02

大上 雅史先生
(東京工業大学情報理工学院)

「AI で広がる分子設計の可能性」

深層学習に代表される AI(機械学習)技術の生命科学や化学領域への応用は、近年爆発的な 広がりを見せている。AlphaFold2 の登場は、タンパク質立体構造予測に関係する研究者のみな らず、生物学や情報学の研究者が広く注目する一種の「祭り」を引き起こした。当然、AlphaFold2 を活用した研究成果の報告は多く見られるようになり、またハッキングもされてきた。現在では、複 合体構造予測 ( AlphaFold-Multimer ) 、ペプ チ ド ド ッ キング予測 、人工 タ ンパ ク質設計 (AfDesign)、リガンド当てはめ(AlphaFill)など、AlphaFold2 をベースとした予測技術の発展が 急速に進んでいる。
本講演では、AlphaFold2 を軸に、情報学・AI が創薬分野へもたらす革新の可能性について、 我々のこれまでの研究をふまえて議論したい。我々は、AlphaFold2 を活用した標的結合ペプチ ドの設計手法や、抗体 CDR 配列設計手法などの検討を進めてきた。また、低分子創薬や天 然物創薬に資する AI 技術開発も同様に行っており、タンパク質間相互作用を阻害するための低 分子設計指針 や分子生成、グラフ深層ニューラルネットワークに基づく標的活性予測と解釈可 能性の追求などの計算手法を開発してきた。大規模な自由エネルギー摂動法計算を実現す るための AI 技術の応用や高速化実装も実施している。いずれも、いかに「有望そうな」分子を作 れるかが焦点となっている。AI による予測はあくまで予測であり、時には嘘も混じるため、使う側もうまく使うことが必要となる。AI 技術とうまく付き合っていくことがこれからの創薬には必須であり、分子設計の可能性をさらに広げられるような AI 技術開発を目指していきたい。

Oxford Journals - Japanese Society for Bioinformatics Prize 2022

日本バイオインフォマティクス学会(JSBi)は、バイオインフォマティクスに関わる研究において顕著な成果を収めた若手研究者を讃え、我が国におけるバイオインフォマティクスの発展に寄与することを目的として、Oxford University Pressの協賛のもと、Oxford Journals - Japanese Society for Bioinformatics Prizeの授与を行っている。本大会では、日本バイオインフォマティクス学会との連携企画として、昨年度、Oxford Journals - Japanese Society for Bioinformatics Prizeを受賞された齋藤 裕先生(産業技術総合研究所人工知能研究センター)にご講演いただく。

03

齋藤 裕
(産業技術総合研究所人工知能研究センター)

「生体分子設計のインフォマティクス」

タンパク質、RNA、DNAは、いずれも配列構造をもつ分子であり、配列を変異させることでその機能を改変できる。生体分子の設計は配列空間の探索問題であり、機械学習などの情報科学的手法が威力を発揮する。これまでに講演者らは、蛍光タンパク質の波長改変、酵素の活性向上および基質特異性改変、標的結合タンパク質の親和性改善、mRNAの翻訳効率向上など、様々な生体分子の設計問題に取り組んできた。その中で表現学習や言語モデルを用いた手法開発はもちろん、実験系研究者との共同研究を通して実証まで行ってきた。本講演では、これらの研究事例を紹介するとともに、その中で見えてきた新しい問題についても議論したい。

学会企画プログラム        国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)

AMED事業紹介
医療・介護・健康データ利活用基盤高度化事業 / 革新的先端研究開発支援事業 / 橋渡し研究プログラム

10月26日(木) 13:30〜15:00 タワーホール船堀2F 桃源

日本医療研究開発機構(AMED)は、医療分野の研究開発およびその環境整備の中核的な役割を担う機関として、基礎から実用化までの一貫した医療研究開発の推進と、その成果の円滑な実用化を図るとともに、研究開発環境の整備を総合的かつ効果的に行うためのさまざまな取組を行っている。学会員が先端医療の実用化に向けた研究開発を進めるために、AMED事業を活用いただけるよう学会趣旨に合った事業を紹介する。

モデレーター

塩塚 政孝(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)

演者

SP-01

松宮 志麻
(AMED ゲノム・データ基盤事業部ゲノム・データ研究開発課)

「医療・介護・健康データ利活用基盤高度化事業(医療高度化に資するPHRデータ流通基盤構築事業)について」

我が国では、医療・ヘルスケア分野のデータを包括的に利活用するための医療DXが進められている。これは、医療を効率的に提供したり、創薬等のバリューチェーンを構築したりするなど、国民健康の充実を目指すもので、行政及び関係業界が一体となり「全国医療情報プラットフォームの創設」や「電子カルテ情報の標準化」などを強力に推進している。その結果、医療データをリアルタイムかつ大容量に包括的に収集し分析できる医療データプラットフォームが構築されつつある。
AMEDゲノム・データ研究開発課は、ゲノム医療、個別化医療の実現に向け、ゲノムデータおよび健康医療データの基盤整備ならびに利活用を促進し、ライフステージを俯瞰した疾患の発症・重症化予防、診断、治療等に資する研究開発を進めている。
本会では、当課が所管する「医療・介護・健康データ利活用基盤高度化事業(医療高度化に資するPHRデータ流通基盤構築事業)」)を紹介する。昨今のウェアラブル端末やスマートフォン等の普及に伴いPHRデータが急速に蓄積されている。このような状況の中で、個人の日々の活動から得られるPHRデータを取得・分析し、健康増進等に役立てるPHRサービスが民間ビジネスとして立ち上がりつつある一方で、医師が効率的かつ適切にそれらのPHRデータを確認し診療に役立てる仕組みは未整備である。そのため本事業では、PHRデータの流通基盤のプロトタイプを設計・開発し、多様なPHR事業者が保管するPHRデータを診療に広く活用するべく技術的な仕組みを整備し、上記の「全国医療情報プラットフォームの創設」との整合性も念頭に、診察内容の一層の精緻化や遠隔診療との相乗効果など医療の質の向上に寄与することを目指している。

SP-02

瀬古 玲
(AMED シーズ開発・研究基盤事業部 革新的先端研究開発課)

「革新的先端研究開発支援事業の概要について」

AMEDで行われている革新的先端研究開発支援事業(以下、革新先端事業)は、革新的な医薬品や医療機器、医療技術等を創出することを目的に、国が定めた研究開発目標の下、組織の枠を超えた時限的な研究体制を構築し、画期的シーズの創出・育成に向けた先端的研究開発を推進するとともに、有望な成果について研究を加速・深化するプログラムです。革新先端事業は、AMED-CREST、PRIME、FORCE、LEAPの4つの研究タイプから構成されています。
AMED-CREST、PRIMEにおいては、毎年度1~2つの研究開発領域が設定され、通常は3カ年度にわたって公募が行われます。研究開発目標の達成に向けて、各研究開発領域のPSおよびPOが最適となる研究分野のポートフォリオの設計を行い、専門分野の研究者のみならず、様々な異分野からの研究者の参画を促し、革新的な研究成果を創出することを目指します。
一方、FORCE、LEAPは、AMED-CREST、PRIME等で得られた基礎研究の成果展開を図るためのプログラムであり、支援を通じてAMEDの疾患別事業や企業導出につながることを目指します。本発表では、革新先端事業の概要および上記4つのタイプについてお話しします。

SP-03

塩塚 政孝
(AMED シーズ開発・研究基盤事業部 拠点研究事業課)

「橋渡し研究プログラム(研究費事業)のご紹介」

AMEDでは,アカデミア等の優れた基礎研究の成果を臨床研究・医療実用化へ効率的に橋渡しするために研究費等の支援を行っています。
AMEDが実施する橋渡し研究プログラム 異分野融合型研究開発推進支援事業では,文部科学大臣が認定した橋渡し研究支援機関の中から,異分野融合型研究開発シーズの支援を実施する5つの機関(東北大学・慶應義塾・京都大学・大阪大学・九州大学)を公募により選定しています。これら5つの機関では,医歯薬系以外の領域の先端技術・知識を利活用し,研究の早期段階から医療応用に向けて開発するシーズを発掘・選定し,研究開発費を配分するとともに,伴走支援することにより育成を行っています。対象となるシーズは,当該機関内だけでなく機関以外が有する研究シーズについても支援しています。また,医療応用に向けたセミナー・シンポジウム等も実施しています。これらの取組を通して,異分野融合型研究開発シーズの早期支援を強化するとともに,橋渡し研究支援の質の向上を図ります。
橋渡し研究プログラムでは,異分野融合型研究開発推進支援事業の他にも,11の橋渡し研究支援機関(北海道大学・東北大学・筑波大学・国立がん研究センター・東京大学・慶應義塾・名古屋大学・京都大学・大阪大学・岡山大学・九州大学)の研究支援基盤を活用し,臨床研究中核病院と円滑な連携をとりつつ,シーズの研究開発を積極的に支援しています。対象とする研究シーズは,機関内外のいずれも対象としており,対象疾患や医薬品・医療機器等の区別なく,基礎から臨床までの研究開発段階に応じた切れ目のない支援メニューを用意している点を大きな特徴としています。
●異分野融合型研究開発シーズ(橋渡し研究支援機関のうち5機関が公募・採択し研究費を配分)
●シーズA(橋渡し研究支援機関が公募・採択し研究費を配分)
●preF・シーズF・シーズB・シーズC(橋渡し研究支援機関が支援シーズを審査後,AMEDが公募・採択し研究費を配分)
これらは橋渡し研究支援機関が支援するシーズに対して研究費等の支援を行う,研究者の皆様にとって魅力的な研究支援プログラムです。まずは橋渡し研究支援機関にお気軽にお問い合わせいただき,医療技術の実用化に向けた研究開発実施のためにぜひとも有効活用ください。